貧困大国アメリカ(その一) - 高原千尋の暗中模索
盲腸の一日当たり入院費用12,000ドル(120万円)
脳卒中の一日当たり入院費用10,000ドル(100万円)平均入院日数7日間
こんなべらぼうな医療費を請求するとは、いったい何処の国のはなしだろうか。もしこんな高額な医療費がまかり通る国があるとしたら、とても生活していけるわけがない。しかしこの国は実在する。この国の実態に迫ったルポタージュには、出産のために入院した女性に届いた請求書の内訳が紹介されている。
妊婦検診合計:4,200ドル(42万円)
検診:200ドル(2万円、1回15分当たり)
2泊3日の入院、手術:9,000ドル(90万円)
ビタミン剤、鎮痛剤:4ドル(400円、1錠当たり)
新生児のケア:950ドル(95万円、入浴1回、検温)
小児科医の手術立会い、検診:500ドル(5万円、検診は1日1回)
●合計:20,000ドル(200万円)
※血液検査、超音波検査(1回300ドル)は別料金
スーフォールズの街の死体安置所
ちなみに、この国では日本のような一律35万円の出産育児一時金制度はない。すべて「民営化」による「自己負担」が原則である。「民営化」、「自己負担」・・・、このキーワードから賢明な皆さんのことであるから、これがどこの国のことであるか容易に想像がつくだろう。そう、自由の国、アメリカ合衆国である。
2005年にアメリカ合衆国では204万件の個人破産が発生している。その原因の半数以上があまりに高額の医療費負担が原因となっているという。なんと100万人以上の国民が医療費の支払いに窮して破産しているのである。国民皆保険制度のある日本人にとって、この現実は、にわかに信じがたい。
音声のカバーの自由を何
こうしたアメリカの現実を暴き出したルポ「貧困大国アメリカ」(岩波新書)は、今年1月に発売されると同時に第1刷は売り切れ、3月には第9刷まで発行された。私も遅ればせながら第9刷を手に入れ、衝撃を持って読み進んだ。本書の著者である堤未果(みか)氏は米国野村證券に勤務中に同時多発テロに遭遇し、それをきっかけにジャーナリストとして活躍を始め、2006年には黒田清・日本ジャーナリスト会議新人賞を受賞した奇才である。現代アメリカの悩める病巣を浮き彫りにする取材力と描写力には脱帽する。本書のプロローグには、サブプライム問題の餌食となったメキシコ移民で機械工のマリオとその一家が登場する。マリオのようなヒスパニック系の低 所得層を狙ってサブプライムローンを押し付けた金融機関のやり方は、新自由主義(=市場原理主義)を掲げ取り返しの付かない格差社会、貧困大国へと転がり落ちていくアメリカ社会の象徴的な姿である。経済的弱者を食いものにする過激な市場原理主義の実態を、本書は分かりやすく解き明かしてくれる力作である。
「肥満」という言葉は、自由の国アメリカでは、いまや「貧困」と同義語になりつつあるという。肥満は豊かさの結果かと思いきや、そうではない。アメリカでは貧困こそが肥満を生み出す原因となっている。
どのようにニュージャージー州の不動産ライセンス
ニューヨーク州の公立小学校に通う生徒のなんと50%が肥満児だという。ニューヨークには190万人の児童がいるが、その25%が貧困児童であり、その3分の2が学校の無料−割引給食や、貧困ライン(世帯年収2万ドル=200万円以下)以下の家庭に配給される食料交換クーポン「フードスタンプ」に頼っている。「フードスタンプ」で交換できる食料は安いジャンクフードがほとんどである。無料−割引給食でも、ハンバーガーにピザ、マカロニ&チーズ、フライドチキン、ホットドッグなど、子どもの健康など全く考慮されていないメニューばかりが並ぶ。現在、無料−割引給食プログラムに登録している生徒数は全米で3000万人を超える。貧困地域 ほどこの制度を利用する生徒は多く、裕福な地域の子どもたちは親が低カロリーで栄養価の高い手作りのランチを持たせている。朝食もろくに食べさせられない貧困地域の親たちにとって、給食プログラムは命綱となっているのである。
学校側は少ない予算でやりくりするために、人件費を削減し、調理器具は老巧化し、メニューは安価でカロリーが高く調理の簡単なインスタント食品やジャンクフードになってしまう。この学校給食という巨大市場をファースト・フードチェーンが狙う。政府の援助予算削減にともない、マクドナルドやピザハットなどの企業と契約する学校が増えている。ブッシュ政権は2007年度、6億5600万ドルの無料食料援助予算削減を実施し、そのために4万人の児童が無料給食プログラムから外される憂き目にあっている。新自由主義(=市場原理主義)の大義のもとに進められる社会保障関係の予算削減と、教育、福祉、医療分野の「民営化」推進政策は大企業を潤わせる一方で、貧困層は無慈悲に切 捨てられ、その結果のひとつの現象として肥満児童がさらに増加しているのである。
フードスタンプに頼るのは子どもたちだけではない。2006年に全米でフードスタンプを受給したアメリカ人は2620万人に上る。この数字は実際にフードスタンプを必要としている人口の6割に過ぎず、受給資格を持ちながらそれを知らずにいる人口が4割である。米国内で貧困ライン(世帯年収2万ドル)以下の生活をしている国民は3650万人にのぼるのである。これらの人々は家賃を除くと一日に使えるお金は平均5〜7ドルである。肥満人口の比率が高い州は、ルイジアナ、ミシシッピ、ウエスト・バージニアの3州で、それぞれ30%である。ミシシッピとルイジアナは全米で1番目と4番目に貧しい州であり、貧しさと肥満が深く関係していることがこ� �数値からも伺える。
アメリカにおいては、不健康な肥満は貧しさの象徴である。アメリカという国家もまた、不動産と金融バブルという不健康な肥満の病におかされ、いまや高熱にうなされ喘いでいる。アメリカの現実は、新自由主義(=市場原理主義)というウイルスに侵されている日本の明日の姿である。日本もアメリカ同様の貧困大国への道を突き進むのか、それとも国民ひとりひとりが幸福感を実感できる社会を構築する道を選ぶのか、その岐路にあって、ルポ「貧困大国アメリカ」は明日を見極める多くの材料を提供してくれている。
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貧困大国アメリカ(その一)
貧困大国アメリカ(その二)
貧困大国アメリカ(その三)
貧困大国アメリカ(その四)
貧困大国アメリカ(余話)
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